老子道徳経
-第43章-
この世で一番やわらかく弱弱しいものが
この世で一番硬くて強靭なものを
想いのままに走らせる
カタチを持たないやわらかいものは
硬いものが入れない小さなすき間に
入り込むことができる
カタチをもたないやわらかなもの
それは何も為していないようで
すべてを為している
その力がもたらす恩恵ははかりしれない
多くを語らず
ことさらなことをしないあり方
それにかなうものは
この世には存在しない

カタチある物質世界では
男性性は剛、女性性は柔
重くて硬いものは強いって思われてる
男性が主で女性は従
男は女よりも先立つものだと思われてる
でも
男性的なものは強くみえて
その実、とても脆い
石も、鋼も、砕け散るときは粉々になる
女性的なものは
そのやわらかさゆえに砕けない
ごつごつの岩や石の上やすき間を縫って
川の水は、悠々と流れる
周囲の環境が変わっても
流れることをやめない
男女が愛し合うと
女は男の中を流れ巡る
だから
男が女をほんとうに愛したとき
自ずと男は女に身を捧げる
そうすることで
男は自由を得る
愛する女をまるごと抱けば
女のエネルギーが男のすき間に沁みとおっていく
男は女の想いのままに走ることをいとわない
男がどこまでも走るためには
女が必要みたいだ
ここでいう、男女は
性別のことだけじゃない
一人の人間の中にある
男性性と女性性のこと
わたしたちが
静かで柔らかくあって
恣意性や狡猾さとは無縁なとき
自然とエナジーで充ちていく
そのエナジーは
活発な動きを生み出して
わたしたちを純粋な行動へと走らせる
そうして
知らぬ間に
いろんなことが樂に成就しているんだ
かみゆりら
天下の至柔(しじゅう)は
天下の至堅(しけん)を馳騁(ちてい)す
有る無きものは
間(すきま)無きに入る
吾れ是を以て
無為の益あることを知る
不言の教
無為の益は
天下これに及ぶこと希(まれ)なり
(老子 金谷治著 講談社 書き下し文より引用)