女神たちのタオイズムー老子道徳経

老子道徳経-第33章-ただ、今を、この世界を、思いのままに生きればいい

老子道徳経

第33章

 

他人ー外側の世界を知るのは、知識の人

自分自身ー内側の世界を知るのは、智慧の人

他人に勝つ人は強いかもしれないが

自分自身に克つ人はほんとうに強い人だ

 

今に満ち足りている人はゆたかだ

今できることを淡々とやり続けることが

志を果たすことになる

それを忘れない人はその身を永らえる

本来の自分自身である人は

たとえ死んでも

その存在は永遠になる

 

 

「この世のすべて知りたい」と思った男がいた

男は

「知識で、この世は思いのままになるはずだ」

と思っていた

そのために

「あらゆる知識を身につけなければ」と

あらゆる場所を旅をし、見聞し、書を読み

来る日も来る日も膨大な情報を集め続けた

 

けれど

どこまでいっても

すべての情報を集めることなんてできなかった

集めれば集めるほど

自分の集めた情報の薄っぺらさに打ちひしがれた

そのうち

集めた情報は、勝手に一人歩きを始め

機械仕掛けの人形のように

昼夜問わずしゃべりまくった

アタマがパンパンに膨らみ

火のように熱を帯びて

男のアタマは破裂してしまった

男は悲鳴をあげ、氣を失い、その場に倒れてしまった

 

どれほどの時間が経ったのだろう

外への探求が極に達したのか

知識を蓄えたアタマの部分は

破裂してふっとんでしまったが

男は生きていた

目覚めたとき、男の興味は自然と

自分の内側へと向かっていった

 

閉ざれてきた内側の世界の扉を開くと

そこは

筆舌に尽くしがたい暗澹とした場所だった

止むことのない争いやドロドロとした欲望が渦巻いていて

とんでもなく居心地が悪かった

 

ここは危険だ

意識を失えば

そのまま混沌の渦に呑み込まれてしまう

 

男は震えながらも

油断せず、意識を保ち

目を背けたくなるような

醜悪な自分の分身たちを

氣がとおくなるほどの長い時間

ただ意識の目で観つづけていた

 

そこに、男は

とてつもなく膨大な質量の情報を観た

それは

外で集めた情報の比ではなかった

 

どれほどの時間が経ったのか

混沌とした霧が晴れる瞬間が訪れた

 

男は、混沌の奥深くに存在する

真の自分自身を見出し

一体になった

 

 

もはや「知りたい」と思うことはなくなった

一切を外に求めなくなった

 

「もっとよい何か」を探すよりも

ただ自分自身にくつろいで

特別に優れた何かでなくていい

淡々と、今、自分にできることをやっている

そんな自分にとても満足していた

やがて

単純な仕事は大きな事業へと発展し

彼の周りには多くの人びとが集うようになった

 

男は氣づいた

これが、自分が探していたものだったと

わたしは

「世界を思いのままにしたかったのではない」

「ただ、今を、この世界を、思いのままにただ生きたかったのだ」

 

この男の自然で素朴なあり方は

彼が去った後も

失われることなく人びとに伝わっていった

かみゆりら

 

人を知る者は智なり

自ら知る者は明なり

人に勝つ者は力有り

自ら勝つ者は強し

 

足るを知る者は富む

強めて行う者は志有り

其の所を失わざる者は久し

死して而も亡(ほろ)びざる者は寿(ひさ)し

(老子 金谷治著 講談社 書き下し文より引用)